雨のように流れ続ける






昔、友人と、とある廃れた街へ行ったんだが、散策しているうちに友人と逸れてしまってね。

そのうち雨が降ってきてさ、たまらず近くにあった廃モーテルに入ったんだ。

中は薄暗くて、じめじめしてて、

少し気味が悪かったが、雨漏りはしていなかったから、とりあえずそこに留まることにした。




それから小一時間ほど、部屋にあったボロボロのソファで休んでたんだが、雨は一向に止む様子がない。

携帯の電波も圏外で、友人との連絡も取れないし、暇だからモーテルの中を少し探検してみることにした。




一つ一つ回った部屋は、どれも同じゴテゴテした飾り付けが施してあって、少し厭きてきた頃だ。

明らかに様子の違う部屋に辿り着いた。

それまで見てきた部屋の真っ赤な壁紙や扉とは違って、その部屋の周りだけ真っ白なんだ。壁紙も、扉も。

扉の前に近付くと、中から啜り泣きのような声が聞こえてくる。

普通だったら怖くて近寄れないような状況だろう?

だけどその声は酷く悲しそうで、「怖い」なんてちっとも思わなかった。

だから、扉をゆっくり開けて、部屋に入ったんだ。




中に居たのは、一人の青年だった。

真っ白い部屋の中で、真っ白い椅子に腰掛けて、しくしく、しくしく、泣いてるんだ。

俺が部屋に入ってきたことにも気付かない。ずっと俯いて、涙を流し続けてた。

何だか見てて痛々しかった。見てられなくなって、俺は声をかけた。




俺が声をかけると、そいつはびっくりした様な顔でこっちを向いた。

随分と端整な顔をしていたよ。目を泣き腫らしてはいたが、物凄くきれいな顔だった。

思わず固まっていると、今度は青年が口を開いた。

「誰?何か用?」ってね。

素っ気無い言い草で、何とまあ無愛想な野郎だと思ったものだが、依然流れ続ける涙を見ていると怒る気にはなれなかった。

とりあえず、何故こんな所に居るのか、どうして泣いているのか、何者なのかを聞いたが、答えは全て「あんたには関係無いだろ」だ。

他にも色々質問したが、何一つまともには答えてくれなかった。




一通り問答が終わると、俺の電子腕時計のタイマーが鳴った。

夕方の4時。もうそろそろ支度をしないと終電に間に合わなかったから、青年には悪いが適当に挨拶をしてモーテルを出た。

激しく降っていた雨はすっかり止んで、すぐに友人とも出会えたよ。

帰り際、あの廃モーテルの方を振り返ってみたんだが、どこにもそれらしきものは見当たらなかった。




今でも、雨が降る度に、思い出す事がある。

あの青年は、今でもあそこで涙を流し続けているんだろうか・・・ってね。











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